空の向こうには、―Another eyes―

    

僕の住む部屋の近くでは、時折「暮れ方」と呼ばれる現象が起こる。

空が、いつもの青い空から、朱くなって、黄色、薄青。

そして、段々となんともいえない昏い色へと変わっていくのだ。

この界隈に住む、もしくはまた別の地域に住む、僕らの都市伝説。

嘘のような、本当のはなし。

 

僕の住処は、世界の果て――マチカドにある中途半端に階層の高い集合住宅の三階。

「暮れ方」の時になると、僕はいつも窓辺に腰掛ける。

何故って、下の方から遠くの方まで、なんとなく見渡せるから。

何故見渡すのかって、それは人探しのため。 「暮れ方」になると、いつも「誰か」が小走りになってこの辺りへとやってくる。

「誰か」さんは、マチカドのカドへと手を伸ばす。 そうすると、どうしてだか「暮れ方」が終わってしまうのだ。

今度こそ、声を掛けてみようと思った。 けれど、今回は「誰か」さんひとりきりじゃない。 

後からもうひとり、男の人がついてくる……?

 

(ごぼり)

 

どこかで、何かが蠢いたような気がする。

気が付いたら、「誰か」さんも男の人も、僕の見渡せる範囲から消えてしまっていた。

「暮れ方」もおしまい。視界の歪がやってくる。

    

――――――――――

 

「暮れ方」が去った後の、いつもの何だか名残惜しくて気怠い時間。

今回は、何故だかことさらに名残惜しい気持ちになって、窓辺に座ったままでいる。  

空がちかちかした気がして、眩しくて溢れた涙で視界が滲む。

 

(ごぽごぽ)

(ごぽり)

 

「あれ?」

 

また、いた……?

涙で視界はぼやけていて、はっきりとは判らない。

見える世界が、朱くなって黄色くなって薄青になって昏く、ならなかった。

 (ごぽごぽ)

(ごぼ)

 

(ごぼごぼ)

 

訪れたのは、涙でひたひたのブルースカイ。

  

――――――――――

 

両目から海が溢れ出した。 空と海の境目がわからなくなって、僕は深海に飲み込まれていく。

空と海が解けて、僕は沈んでいく、浮かんでいく。 満たされていく気持ち。からっぽになっていく気持ち。

本当は知っていたんだ、世界に果てなんてないってこと。 果てしない世界では、もう君にとどかない。

心残りだけ、どうかホルマリン漬けになってください。

 

 

 

    ――――――――――

     空の向こうには、 加瀬ナカレ様

    上記リンクのアナザーストーリーを綴ったものになります。許可は頂いております。

    加瀬様のストーリーが絶望を表しているのなら、このストーリーは後悔を表している気がするなあと思う次第です。

    突然のお願いにも関わらず、快くOKをくださった加瀬様、ありがとう御座いました。

      Back 

inserted by FC2 system