ほろ苦い夏 甘いクレープ
* * *
祭り会場の隅の隅まで歩き、やっと誰もいない場所を見付けて座り込む。揺れる赤い兵児帯も、カランコロンと下駄を鳴らす音も、今はさっぱりと消えていた。
残ったのは、ふたつのクレープ。自分の分と、彼女の――自分にしか見えない友達の分。
「あれだけはしゃいでたくせに、ね。……ふたつとも、オレが食べるんじゃないか」
遠くなった喧騒、近付いてくるのだろう遠雷、いつの間にか姿をくらましたオレだけの友達。夏は騒がしくて気まぐれだ。実にほろ苦いことだと思う。
齧ったクレープだけが、ただ、ただ甘い。